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2006/09/25

ユーザーの声

 製品開発ではよく “ユーザーの声に耳を傾けろ” ということがいわれる。営業やマーケティングでも “ユーザーの声に耳を傾けた結果できた製品です” というのはよく聞くキャッチフレーズである。
はたして本当にそうなのだろうか? ユーザーの声にしたがって製品を開発することは正しいのだろうか?

 私がソフトウェア開発に携わっていた経験からすると、ユーザーからの声は参考にはなるが、決定的な要因とはならなかった。
なぜか?
 1.ユーザーは既存の製品や機能しか考えないため、ユーザーの不満は既存の機能の欠点、ユーザーの要望は機能の拡大や向上といった既存のものの延長となる場合がほとんどである。
 2.アンケートなどでは、ユーザーは意図する・しないにかかわらず、理想や相手の期待する回答をする傾向にある。
 3.不満は感じるが、ユーザーのほとんどはそれがどういう不満なのかをうまく説明できない。自由書き込みになかなかかいてもらえない。

 私が以前 “日経ビジネス” で読んだ記事で今でもよく覚えているのは、サンヨーの掃除機に関する記事である。
当時、サンヨーの掃除機はそれほど売れていなかったらしい。ユーザー調査をすると、ユーザーの希望する機能は、
 1.強力な吸引力
 2.静かな動作音
   ・・・
 5.排気が出ない
で、排気に関する要望は5番目だった。
優先順位でいけば1.の吸引力の強化であろう。現に当時の掃除機業界ではどれだけ吸引力が強力化を競っていた。ところが、サンヨーの掃除機担当者は5.の排気に目をつけた。担当者は設計や製造の人たちの反対にもめげず、排気を吸引口に循環させる掃除機の発売にこぎつけたのである。
はたして、その掃除機は爆発的に売れて、発売した年のそのクラスの掃除機の販売シェアの実に50%を達成したと記憶している。

 私が勤めていた会社はアメリカ資本の日本法人であった。そのために、仕様の策定には必ず客観的なデータを要求された。「その仕様を実装したらどのくらい販売数が伸びるのか?」 そんなときによく使われるユーザー調査であるが、上の例のように1位2位を差し置いて、5位を仕様に盛り込むなどほとんど不可能であった。
もちろんそういうシステムにはちゃんと理由がある。アメリカは多様な人種・多様な文化が入り混じっているため、多くの人たちを説得するためにはどうしても客観的なデータが必要になってくる。それがなければ全体としてまとまらなくなるのである。しかしそのために、画期的な機能は実現しづらくなってしまう。個人の“勘”というものが通らないからである。
一方、まだ日本独自のやりかが認められていた頃の日本の現場では、自分で使っての感触やユーザーからサポートへの問い合わせなどから、個人的な勘で仕様が決められたりしていた。画期的な機能が実現できたこともあるが、何よりも現場で働いている人間の士気は高かった。

 日本企業でも最近はデータ重視の開発をしているという話を聞く。データ重視の開発は企業・組織を効率よく動かす上ではまったく正しい方法だと思う。
ただ、勘を働かせてユーザーに喜ばれる機能を実装してきた経験のある私から見ると、なにかさびしさを感じる。そういった数字に振り回されるような仕事をしている人たちが心身の健康を害さないことを祈るばかりである。

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