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2006/11/07

ユーザビリティ -規定値決定の難しさ-

 前の記事の余談である。

 もう、15年も前の話である。私のいたチームが、初めて Windows (当時は Windows 3.0) 用のパッケージソフトを出そうとしたときの話である。

 選択置換(セレクション リプレース、文字などを選択して文字入力をすると、選択部分が削除されて新たに文字が入力される機能) を既定値でオンにするか、オフにするかで、開発チームとサポート チームの間でかなり長い間議論された。

 今でこそ “選択置換” は、Windows では当たり前の機能であるが、DOS アプリケーション時代は、そもそも “(文字)選択” という概念が希薄であった。当時のアプリケーションといえば “一太郎” であった。パソコンを “一太郎” と呼んでいた人もいたくらいである。
(余談の余談になるが、「一太郎を教えて」 といわれて一太郎のマニュアルをもっていったら、教えて欲しかったのは、一太郎が入ったパソコンに入っていた “ロータス 1-2-3”(Excel の同類) だったという笑い話もある。)
当時の一太郎は、“文字選択” はあくまで予備的なもので、基本は “機能主導” であった。例えば、“コピー” を実行すると、「どこから?」 と始点の位置を問われ、始点を指示すると 「どこまで?」 と終点を問われる、といった感じである。

 その当時の “選択置換” の何が問題だったかといえば、ユーザーが不用意に文字を選択した状態で文字入力したため、意図していない文字が消されてしまうということである。サポートによれば、何らかの理由で全選択をしてしまい、さらに位置文字入力してしまったため、それまで入力した文章がすべて消えてしまった、という事例があったそうである。しかも、さらに悪いことにあわててそのまま文章を保存してしまったというのである。当然、それまで苦労して入力した文章はすべて消えてしまったわけである。
文書全体を消してしまった例は稀なケースではある。しかし、部分選択をして、太字にした後に文字を入力して太字の部分を置き換えてしまった、というような問い合わせは、当時のサポートによればずいぶんと多くあったそうである。当時のDOS版一太郎では、文字入力は常にカーソル位置への挿入だったので、ユーザーはすべてアプリケーションでそうなると思っていたわけである。

 そのような理由で、新しく発売するWindows用のアプリケーションでは、規定値で “選択置換をオフ” にしろ、と要求してきたわけである。「WindowsもまだDOSと並行して使われているのであるから、WindowsアプリといえどもDOSアプリを考慮すべきである。」 と。

 結局、最初のWindowsアプリケーションは、“選択置換:オフ” で発売された。

 これでサポートへの問い合わせもなく、めでたし、めでたし。  であれば、私もこの投稿を書いたりしなかったであろう。

 今度は逆に、「Windowsアプリなのに、何で選択置換ができないんだ!」 との問い合わせが数多くサポートにかかってきたのである。サポートの思惑が大きく外れたわけである。サポートの予想に反して、ユーザーはWindowsアプリケーションの作法をちゃんと理解していたのである。

 そんなことがあり、一年後に発売した次のバージョン以降は、Windowsアプリケーションらしく “選択置換:オン” が規定値として落ち着いたのであった。

 もちろん、最初のバージョンで “選択置換:オン” にしていたら、サポートへの問い合わせがなかったのか?といえば、おそらくけっこうな数の問い合わせが来たことが予想される。当時のサポートが間違っていたというつもりはなく、過渡的な状況での難しい選択だったわけである。

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 なぜこのような余談を書いたかといえば、前日の記事で 「規定値を安易に決めてはいけない」 とは言ったものの、十分に考慮して、議論をしても、ユーザーの賛同が得られるとは限らない、ということを言いたかったわけである。

 誰もが快適に使える規定値を決めること。皆が快適に使えるのだから、切り替えるためのオプションが不要になること。それは、ユーザビリティでの大きな課題である。

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